金 慶 橋
鋼とコンクリートの次に来るべき土木材料の模索 |
有馬の山あいにある金慶橋 |
錬鉄や煉瓦を主たる土木材料としていた時代が去り、現代は鋼とコンクリートが全盛である。この陰で次代の材料の研究も続けられており、アルミ合金やFRPが検討されているようだ。今回は、その先駆的な取組みであるアルミ合金橋を訪ねた。 |
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度成長期に突入するとともにわが国の鋼橋の架設は急増し、同時に、設計・製作・溶接・鋼材などの分野での技術革新も盛んであった。鋼材について言えば、普通軟鋼に加えて主要部に高張力鋼が用いられ始め、早くも昭和33(1958)年に完成した辰巳橋(国道43号、L=104.4m)に60kg1)級の高張力鋼が193t使用されている(近藤 和夫ほか「高張力鋼を使用した辰巳橋について」(溶接学会誌第28巻第6号(1959)))。高張力鋼はその後の名神高速道路や首都高速道路の建設においても採用され、時代の主流となっていく。その一つの到達点が、70kg級と80kg級の高張力鋼を5,000tも大量使用した港大橋2)だ。
高張力鋼の普及とともに、その次にくるべき材料の研究も進められた。ここで着目されたのがアルミ合金だった。建築の分野では、25年にアルミ製のアーケードが仙台に登場し、同年 東京大学生産研究所にアルミ製の実験住宅が建てられている。33年にアルミサッシやアルミカーテンウォールが商品化され、アルミ製品の使用は一般化していった。機械の分野でも35年にアルミ製カーエアコンの本格生産やアルミ製バスの製造が始まっている。
ここで、アルミを橋梁に適用する際の一般的な利欠点を見ておこう。まず、利点としては、@鋼材に比べて軽いので下部工が小さくなり、架設に際しても取り扱いやすい、A塗装が不要であり維持管理費が低減できる、B押出加工により特殊な断面形状の部材も作れる、などがあり、一方、欠点として、@素材価格が高い、A弾性係数が小さい(鋼の1/2.8くらい)ためたわみが大きくなる、Bコンクリートや鋼と接する部分では絶縁材が必要となる、C熱膨張係数が大きい、D溶接に特殊な技術を要する、などがある。
アルミ合金を橋梁に用いた事例としては、
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図1 金慶橋の桁及び床版 |
1933年にアメリカのピッツバーグでスミスフィールド橋3)に適用したのが最も古いとされているが、わが国では北海道開発局がアルミ製の応急架設橋を試作している。これは高力アルミ合金のピン及びリベットを使用したトラス橋であって、溶接によるものではなかった。わが国における最初で唯一の溶接アルミ合金橋は、芦有開発鰍ェ道路運送法によって設置した芦有ドライブウェイにある金慶橋である。
慶橋は昭和36(1961)年6月に竣工した。この年はアルミ地金の輸入が自由化された年でもある。
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図2 施工者らが記された銘板 |
瑞宝寺公園前バス停から少し芦屋よりの小さな峡谷にかって架かっており、橋長20.6m、幅員7.12〜8.16mである。銘板には、製作
播磨造船所、アルミニューム合金材 神戸製作所、アルミニューム地金 日本軽金属、取扱商社
佐渡島金属と記されている。図1で見るように、主桁のほか補剛材もすべてアルミ合金のようだ。床版はコンクリートである。また、高欄にもアルミ合金が用いられており、自由な造形を実現している。文献によると、材の調達に設計が強く支配されており、例えば、引張応力1,550kg/cm2の材は大サイズの板が得られないためリベット継手箇所が多くなり美観上おもしろくないとして900kg/cm2の材を用い、本橋の規模ならば一般に3主桁が有利となるところ材料のサイズの制約から4主桁としている。
ルミ合金を橋梁に使用するという先駆的な取り組みも、金慶橋の後に続くものはなかなか現れなかった4)。その理由はアルミ材が高価であるということに尽きよう。こうした中、平成23(2011)年にはアルミ床版を使用した道路橋が日本軽金属の工場内に架設された((http://www.nikkeikin.co.jp/news/
whatsnew/post_23.html)。橋長:14.56m、 総幅員:12.82m。同社では、アルミ合金製大型形材を摩擦攪拌接合(FSW)5)によってユニット化することで軽量で耐久性の高い床版を開発し、従来のコンクリート床版の1/5、鋼床版の1/2の重量負担を減らすことができて耐震性の向上が図れるとしている。また、ユニット化された床版を設置するプレハブ構造のため、小型重機による架設が可能であるという。塩害の発生しやすい海浜地区での採用も期待している。
今、全国の道路橋で経年劣化が問題視されており、これまでにない大規模な更新や修繕が行われることになっている。その中には桁の増設や補強材の追加、床版の補強など上部工の重量が増える施策もあるかも知れず、そのようなケースでは、アルミの特性を生かせることができる場面もあるかも知れない。
参考文献 川本 豊次郎ほか「日本最初の溶接アルミニウム合金橋 金慶橋」(月刊土木技術1961年5月〜6月) |
(2012.12.07) |
1) 鋼材の規格は1mm2当りの引張強度で表される。平成3(1991)年に全面的に国際単位系(SI)が導入されてからはニュートン(N)を単位として表示するが、それまではキログラム(kg)を単位としていた。
2) 阪神高速道路4号湾岸線に架かるゲルバートラス橋。昭和49(1964)年架設。この形式としては世界第3位の中央径間長(510m)を有する。
3) スミスフィールド橋はモノンゲーラ川に1882年に架設された 町のモニュメント的な橋梁で、レンズ型トラス橋という珍しい形式。1933年に死荷重の低減と活荷重の大型化対応を目的としてトラス部の2径間にアルミ合金製の床版と床組が採用された。凍結防止剤の影響などで腐食が進行し、1967年に床版の取換えが行われ、1994年には再び進行したアルミ部材の腐食対策と車線の増加のため、アルミ部材はすべて撤去されて軽量コンクリート床版と鋼製床組に変更されている(http://alst.jp/
pdf/Aluminum%20Bridge%20in%20USA%20Report.pdf)。
4) 一部の歩道橋や既存の橋梁に歩道を添架する場合など限られた条件においてアルミ桁やアルミ床版が採用されている例はある。関西では新加古川橋(国道2号加古川バイパス)に、橋脚を増設せずに自転車歩行者橋(L=420m、W=4.0m)を付設するのにアルミ合金を採用したケースが知られる(http://www.kkr.mlit.go.jp/himeji/
outline/road/think/bypass/pdf/vol9.pdf)。
5) 円筒状の工具を回転させながら部材に貫入し、摩擦熱を発生させて部材を軟化させるとともに、接合部周辺を練り混ぜることで複数の部材を一体化させる接合法。材料を溶かさないため溶融溶接の場合よりも残留応力や変形量が小さい。
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