と り  か い
鳥飼大橋

有料道路制度の黎明期を知る名橋

大阪府及び日本道路公団の一般有料道路だった鳥飼大橋(2009年9月撮影)
 国道1号と大阪中央環状線が重複する守口市大日付近では、混雑緩和のために関係機関が協力して守口JCTの整備や中央環状線の拡幅などを進めている。その中で、わが国の有料道路制度の変遷を体験してきたひとつの名橋が自らの時代を終えようとしている。中央環状線の鳥飼大橋がそれだ。

後のわが国の道路は著しく荒廃しており、昭和23(1948)年7月に発足した建設省は進駐軍の命を受けて「道路維持修繕5カ年計画」を策定するとともに、政府は「道路の修繕に関する法律」を制定してその促進を図ったが、財政事情の悪化のため計画の30%足らずしか執行できなかった。折しも勃発した朝鮮動乱に伴う特需景気により経済はようやく復興の機運を迎えたが、この過程で自動車台数と自動車輸送量の増大はきわめて急速であり、道路投資の重心を従来の修繕から新設・改築へと大きく転換することが迫られた。これは、道路整備のための多額で安定した財源を緊急に確保しなければならないことを意味した。
 アメリカでは早くからガソリン税を道路の目的税とする措置を講じていたほか、ターンパイクの建設に民間資金を利用した。このことからも、多額の資金を必要とする道路事業を国家の一般財源だけに依存できないことは明白であり、わが国においても揮発油税を道路事業のための財源とすることと、政府関係資金の活用による有料道路制度が考案された。民間資金を導入しなかったのは、当時は民間設備投資が旺盛でとても道路事業に導入できる余裕がなかったからである。27年6月、有料道路制度を定めた「(旧)道路整備特別措置法」とその資金を管理する「特定道路整備事業特別会計法」が制定され、道路の近代化に向けた大きな原動力を得ることとなった(揮発油税収入を道路整備の特定財源とする「道路整備費の財源等に関する臨時措置法」は28年7月の制定)。
 (旧)道路整備特別措置法は、有料道路の施行主体として建設大臣及び道路管理者たる知事又は市長であることを規定し、有料道路の建設資金を資金運用部資金(郵便貯金を原資とする)によることとしている点が現行と異なるが、有料道路とすることができる道路の要件として、@通行により著しく利益を受けるものであること、A通常他に通行の方法があって当該道路の通行が余儀なくされるものでないこと、B新設又は改築に要する費用が償還可能であるとともに、C料金の額は当該道路の通行により受ける利益の限度内とすること等、今日の有料道路の概念が余さず示されている。この有料道路制度は27年から31年まで5年間存続し、この間 99億3,000万円の資金をもって、国の直轄事業8路線、地方公共団体の事業27路線が実施された。
 27年の対日平和条約の発効によるわが国経済の自立と国際社会復帰のため、国土保全事業、国土開発事業、社会基盤整備事業が積極的に推進され、31年の経済白書をして「もはや戦後ではない」と言わしめたほど急速な成長を遂げた。その結果、自動車交通は貨物輸送トンキロで25年から30年にかけて1.8倍に、旅客の輸送人キロで3.0倍になるなど、爆発的な増加を見た。先に見たように特定道路特別会計は有料道路の建設資金を資金運用部資金に限定していたため年間20億円程度が上限であり、交通需要の増大に対応して有料道路を整備していくためには、民間資金や外資をも導入することが必要と考えられた。そこで、有料道路事業を専門に行う公団を設立し、資金源の拡大と事業の総合的・効率的運営を行うことが考案され、31年3月14日、日本道路公団の組織等を定める「日本道路公団法」と公団の行う有料道路に関する規定を盛り込んだ「(新)道路整備特別措置法」が公布された。日本道路公団は4月16日に設立され、同日付で建設大臣から供用中3路線、工事中4路線、調査中1路線の引継ぎを受け、さらに7月1日には19府県から供用中(一部供用中を含む)11路線、工事完成未供用2路線、工事中9路線の引継ぎを受け、全国の有料道路を公団が一元的に管理運営する体制へと移行した1)
こでようやく標題の鳥飼大橋に話は変わる。鳥飼大橋は、淀川を越えて摂津市鳥飼和道と守口市大庭町を結ぶ橋梁である。現在、同地には府道大阪中央環状線の橋梁が上下2橋、近畿自動車道の橋梁、さらに大阪モノレールの橋梁が供用されているが、そのうち中央環状線の下流側の橋梁が今回のテーマである。
 最初、ここに橋が架けられたのは、昭和17(1942)年から防衛道路として架設を進め22年に完成した木造橋であった。幅員4.5mの単純桁29連、ダブルワーレントラス10連から構成された。しかし、水害などによる破損を繰り返し、
図1 戦時中に防衛道路として着手された(初代)鳥飼大橋、木造のダブルワーレントラス橋であった(出典:httpd://
www.city.settsu.osaka.jp/soshiki/shichoukoushitsu/
kouhouka/imamukashi/858.html)
図2 近くでは府による「鳥飼の渡し」が昭和50年まで運行されていた(出典;:同左) 図3 鳥飼大橋の概要を記した銘板が左岸側に設置されている
また、自動車交通の増大に耐えられず
図4 日本道路公団に移管された頃の鳥飼大橋、料金所は左岸にあった(旧橋は2代目でその構造は図1と異なっている)(出典:参考文献)
荷重制限が実施されていたという。永久橋が待ち望まれていたが、27年の(旧)道路整備特別措置法に基づく有料道路として9月に大阪府により起工、3億3,000万円の工費をかけて29年11月に供用されたのが件の鳥飼大橋で、幅員7.5m(2車線)、全長546m(43.68+
7*65.52+43.68)のゲルバートラス橋2)である。当初の通行料金は普通自動車100円、小型自動車70円、軽自動車30円、原動機付自転車20円などとなっており、
図5 主構に設置されたヒンジ
物価水準のちがいを考慮すれば、隣接する鳥飼仁和寺大橋(昭和62(1987)年供用)や菅原城北大橋(平成元(1989)年供用)が100円であるのに比べてかなり高額の設定であった。31年の日本道路公団の設立に伴い、7月1日に253,645千円の残債務とともに公団に引き継がれた。公団は府の収受員をそのまま雇用して円滑な引継ぎを図ったという。昭和45(1970)年に償還する予定であったが、交通量の増大により、大阪府が買い取って39年3月16日に無料開放した。なお、旧橋も35年まで供用された。
 38年に大阪市内の淀川大橋、十三大橋及び長柄橋において5t以上の車両の通行を規制する措置が実施され、その影響による交通転換が予想されたので、同年から上流側に3車線の新鳥飼大橋の建設に着手し、40年に完成した。幅員9.6m(3車線)、全長546.9mで、3径間連続格子2箱桁橋3連から成っている。これを南向きの一方通行に、従前の鳥飼大橋を北向きの一方通行として運用されるようになったが、2車線という車線数が他の区間に比べて少ないため、中央環状線の北向きは鳥飼大橋を先頭とする渋滞が恒常的に発生している(当該箇所の混雑度2.53は大阪府で最大)。また、大阪中央環状線は国際標準コンテナ車が通行する「国際物流基幹ネットワーク」に指定されているが、鳥飼大橋は昭和14年道路橋設計示法書による2等橋として建設され、国際標準コンテナ車が通行するには強度が不足しており(20tに重量規制されている)、耐震性も充分ではない。これらの抜本的な解決を図るため、大阪府は平成14(2001)年から約150億円をかけて下流に3車線の橋をかけ直す事業に着手、22年度に暫定的に3車線を供用し、現橋を撤去して25年度には自歩道のついた橋梁として完成させている。
 道路整備特別措置法は平成17年10月の公団民営化を機に、会社による有料道路事業に係る規定を設けるとともに条文の整理が行われた。鳥飼大橋の南では、(現)道路整備特別措置法に基づき、阪神高速道路とNEXCO西日本による守口JCTの事業が行われた。守口JCTは鳥飼大橋の架替えを前提に橋脚位置が決められており、有料道路制度の黎明期を飾り、その後 高速自動車国道や都市高速道路のように有料道路がネットワーク化される方向に発展するのを間近に見守ってきた鳥飼大橋は、JCTの完成を待たずして姿を消す。

図6 手前の桁橋は建設中のもの、次のトラス橋が鳥飼大橋、次の桁橋が近畿自動車道、奥のアーチ橋はモノレール(2009年9月撮影) 図7 3車線のレーンマークも引かれて概成している新しい鳥飼大橋(2009年9月撮影)
 (2009.09.14)

1) 建設大臣及び府県から日本道路公団に引き継がれた道路は次のとおり。
 道  路  名  延長 区分 所 在 地 引継年月日
(供用中)
参宮道路 10.6 直轄 三重県 31. 4.16
戸塚道路 4.2 直轄 神奈川県 31. 4.16
西海橋 2.9 直轄 長崎県 31. 4.16
鳴門フェリー 14.8 地方 兵庫県・島県 31. 7. 1
明石フェリー 9.3 地方 兵庫県 31. 7. 1
鳥飼大橋 1.4 地方 大阪府 31. 7. 1
幕の内トンネル 2.3 地方 広島県 31. 7. 1
住之江橋 1.1 地方 佐賀県 31. 7. 1
掛塚橋 3.6 地方 静岡県 31. 7. 1
大川橋 0.9 地方 福岡県・佐賀県 31. 7. 1
衣浦大橋 1.6 地方 愛知県 31. 7. 1
日光道路 6.5 地方 栃木県 32. 1. 4
(一部供用中)
下田道路 14.5 地方 静岡県 31. 7. 1
立山登山道路 13.8 地方 富山県 31. 7. 1
濃尾大橋 1.4 地方 愛知県・岐阜県 31. 7. 1
(工事完成未供用)
伊東道路 11.3 地方 静岡県 31. 7. 1
湘南道路 5.7 地方 神奈川県 31. 7. 1
道  路  名 延長 区分 所 在 地 引継年月日
(工事中)
京葉道路 8.9 直轄 東京都・千葉県 31. 4.16
笹子トンネル 6.3 直轄 山梨県 31. 4.16
松江道路 5.9 直轄 島根県 31. 4.16
関門トンネル 6.4 直轄 山口県・福岡県 31. 4.16
芽吹橋 4.9 地方 茨城県・千葉県 31. 7. 1
海門橋 0.8 地方 茨城県 31. 7. 1
十日町来迎寺道路 4.8 地方 新潟県 31. 7. 1
真鶴道路 10.6 地方 神奈川県 31. 7. 1
愛岐道路 11.7 地方 愛知県・岐阜県 31. 7. 1
阪奈道路 17.9 地方 大阪府・奈良県 31. 7. 1
高野山道路 16.6 地方 和歌山県 31. 7. 1
南霧島道路 10.4 地方 鹿児島県 31. 7. 1
北霧島道路 13.8 地方 宮崎県 31. 7. 1
武生トンネル 5.7 地方 福井県 31. 7.15
阿蘇登山道路 15.3 地方 熊本県 31. 8. 1
上江橋 2.9 地方 埼玉県 31. 9. 2
裏磐梯道路 30.0 地方 福島県 32. 8. 1
(調査中)
若戸橋 直轄 福岡県 31. 4.16

2) トラスの連続構造にヒンジ(部材の結合点が回転できるもの)を設け、径間中央部がいわばヒンジによりつり下げられたようになった橋。支点沈下等の影響を受けないことが特徴で、地盤が安定していないところなどでも対応できる。ドイツ人Heinrich Gerber(1832〜1912年が発案したとされる。

(参考文献) 「日本道路公団20年史」(昭和51年4月)